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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十六話~(番外?Dead Data@第六話)

…どれほど逃げたのか。気づけば私達は元は住宅街だったろう廃墟群に囲まれていた。


「なんとか…撒いた…みたい……ハァ。」


そう言いながら彼女はその場に腰を下ろす。

余裕のなかった私はその言葉に返答はできなかったものの、同じ様に腰を下ろした。


「…ってよりは追いかけて来てなかった気もするけどね…」

「ぅ…」


何とか返事をしようとしてみたが、小さく音が漏れただけだった。

やはり私より彼女の方がずっとスタミナがあるらしい。

…その辺も改善していかないと、足を引っ張り続けるだろうなこれは。

ふと、彼女が何かを見つけたらしく、突然立ち上がり素早く私の首を掴んで

背の高い草に覆われた空き地へ飛び込み、伏せた。

全てが突然だったため、急に首を掴まれた私は咽た上、背の高い草が口や目にモロに入り悶絶した。


「突然なんっ…むぐ!?」

「シッ。大声出さないで。」


先程まで余裕がなく声すら出せなかったのが何とか絞り出せたが、それを最後まで発する前に口を塞がれた。

口元に指を当てながら彼女は静かに指差す。

その先には例の…四本足の虫のようなコテの集団が湧いていた。ヤキムシだ。


「大抵は喫茶周りにしかいないんだけどね。たまにああいうはぐれが居るんだ。」

「それにしてもどうしようかな…。逃げるのに遠回りしちゃったからまだ結構掛かるのに…」


うんざりした様に彼女はヤキムシ達を見つめる。

戦闘の修行をする場所としては隠れる場所が多いこの廃墟群の方が戦うのには向いてると思うのだが…?

そう思って尋ねてみると


「いや、喫茶はちょっと外れの方にあるからさ、多少騒いでも気付かれないと思うんだよね。こっちだと他にバレかねない」

「から…出来れば戦闘は避けて行きたいんだよね。それに、目的は今は喫茶にまず行く事じゃん。」


との事。なるほどな。そうなると能力がどうの所でもないか…。

そう思っていたら彼女は何か私に投げてよこした。


「落ちてたから使ってみたら?」

「…ライフルか?使った事は無いが大丈夫だろうか…。と言うか何故町中にこんなものが」

「そういうの好きなコテが居たんじゃない?リアルと違ってここは無法地帯だからねー。本物持っててもおかしくはないでしょ」

「…まぁ、そうだな。って、倒すのか?」


そう言うと彼女は彼女で既に似たようなライフルを構えている。

…スコープの様な物が付いてるし、そっちの方が遠距離に向いてそうだな…。


「ほんとは避けて行きたいけど、厳しそうだからなるべく静かに倒そうかと。」

「…こちらの動向がバレるんじゃないか?」

「どうせあのかてないさかなに見つかった時点でバレた様なもんだよ。まぁ、アジトまではバレないだろうけどさ」


タンッ!!


彼女は綺麗な手際で一匹のヤキムシを仕留めた。

うまいもんだな…。それがまた彼女がこの廃墟で長く暮らしていけていた理由でもあるんだろう。

…むしろ、あそこまで出来るようにならなければ生きれなかったとも言えるが。

今の一撃でヤキムシは少々驚いた様な素振りをしたものの、今度は辺りを探索するように動き始めた。

意思や自我が薄いらしい彼らは仲間の死を悲しんだりはしない。

なので、素早く切り替え、今ので敵が潜んでいると認識し、索敵行動に移った様だ。

警備のロボットか何かの様だな。それにしても…。


「効くんだな、銃が」

「アイツらはまぁ…ウィルス入ってないしね」

「え?」


これまで聞いていた事と逆じゃないか。

異常改造を施したからこそ脅威、と聞いていたのに…。


「何匹か死骸を調べた結果、ウィルスらしいものが見つからなかったんだって。
  ヤキムシとsiwasugutikakuniはウィルスが身体から抜けてるから普通のコテとそう大きく違わないみたいよ。」

「大量に用意するコテは、ウィルスを組み込んでないってか組むの大変だからやらなかったんじゃないか、って。」


…となると、奴らを倒せた所で例の死忘やかてないさかなを倒せるとは限らないのか。

これで攻撃すれば勝てるんじゃないか、とちょっと思っていただけに残念だ。

あくまで、今使う位しか役に立たないんだな…。


「…と言うか、君のそれらの情報って」

「私は全部聞いて覚えただけだから…全部聞いた話だよ。ロドクがここに来た頃もその後も全く知らないし。」

「記憶ないもん。」

「…だよな」


さて、それはそうと、だ。

目の前のヤキムシはじわじわこちらの方へ向かってきてる。

気付かれる前に全滅して、余計な事を他のコテに伝えるのは阻止しておきたいな。

となると…


「…。」


私も、何とかこの武器で奴らを迅速に仕留めねばなるまい。

…と言われても、急に銃をぽんっと渡されて戦えって…出来たら苦労しないだろう。

なんとなーく、目で訴える形で彼女へ抗議する。まぁ目はないんだが。


「使い方とか教えたい所だけど私も知らないんだよね。適当にやったら撃てた。から、何とか頼んだ」

「また無茶を言うな…。」


ダメだった。…まあ、どうせいつかは通る道だ。戦闘能力の一つとして武器を扱うのは必要だろう。

解ってるさ、でもつい体は少々逃げ腰になって下がる。

ついだ!決して逃げようとしてる訳じゃない!

だからそのライフルを私に向けて構えないで貰えないか!?

彼女が途中からライフルで攻撃しないし、相手を狙ってないと思ったらずっと私を狙っている!

これ、ついでに修行を強行しようとしてるな!今やもう退路塞ぐ為に居るつもりらしい。

本当無茶ばかりやらせるな彼女は!切羽詰まってるのは判るんだが!


「ええい、ままよ!!」


分からないなりに何となくで銃を構える。くそ、撃てる気がしない!それに…


「使いにくいなこの銃は…」


彼女を真似て、何となくで構えてみたら違和感を強く感じた。

使い方が違う訳でも無いだろう。いや、わからないけども。もっと、根本的な違いを感じた。


「何やってんの?って、ヤキムシ完全にこっちに気付いた!早く撃たないと!」

「…いや、何か違和感が…チッ、ともかくやるしかないか!」


改めて銃を構え、敵に向けて打つ。が、外す。


「ちょっと!相手は直線で来てるし、そんな距離もないのに普通外す!?」

「慣れてないんだよ!それにどうしても違和感がしてだな!」

「そういうレベルじゃねぇからコレ!銃使う以前の問題じゃねーのもう!」


敵はどんどん迫ってくる。気づけば全員の炎が大きく盛り上がり、今にも攻撃してきそうだ。

こんな状況でこんなこと続けてたらやられてしまう!

何とか、この状況を脱しないと…しかし、どうすればいいんだ!?

気になるのは先程から感じる違和感。しかし、だったらどうやれば正解だ?普段俺はどうやって銃を使ってた!?

……ん?“俺”?


「…。」

「ああもう、これ以上は無理っぽいね!仕方ない、私が…」

「待て。」

「…え?」


私は彼女が構えた銃を押さえ、彼女の前に立つ。

そして、銃を右手で…片手で持つと敵に向けて狙いを定めた。


「は!?い、いやいや!射的じゃないんだからそんな!そもそも反動でまともに撃てないでしょ!?」

「…1発だけ、試させてくれ。私が感じた違和感の正体を…」

「そんな!流石にあの数に接近戦されたら私でもきついって!ちょっと!」

「…大丈夫だ、“一発で終わる”。」


何故か、そう確信があった。しっかりと狙いを定め終え、引き金を絞る。


ボォンッ!!!


先程撃った時とは比べ物にならない炎と発射音がして、弾は撃ち出された。

そして…



ドゴォンッッ!!!


激しい爆発音が響き、目の前にまで迫っていたヤキムシが一瞬で吹き飛んだ。

もし、大したダメージにならなかったらもう一発打ち込むつもりで居たが…必要無さそうだな。

吹き飛んだヤキムシは全て、衝撃で絶命している様子だった。

火の耐性はあったとしても、吹っ飛んだ時の衝撃までは耐えきれなかったらしい。


「え、え…?な、なにそれ…?どゆこと…?」


目を白黒させてそうな雰囲気の彼女が、説明してほしそうに私を見ている。

…いや、私自身も正直説明欲しい位だ。よく分かってない。

ただ、無事、私の能力らしいものが見れた気がするよ。

ひとまず、それに対しては礼を言っておく。


「これで私も戦えそうだな。有難う」

「…って言っても私達の能力みたいなのじゃないし…礼を言われる筋合いないかも…」

「切っ掛けは君だろ?なら君のお陰さ」

「…それにしても、変わった銃の持ち方だったよね…。そもそもライフルなのに、何、アレ。」


それは私もそう思う。ライフル銃の正しい持ち方からは完全にかけ離れている。

だが、それでもむしろその方が使いやすく、しっかり相手を狙って攻撃が出来る。

頭の片隅に過去の記憶がちらっと過ぎり、私は前はこうして使っていた、と思ったのだ。

そしてそのとおりにやってみたらこの有様。一体私はどういうコテだったのか…。


「…所でさぁ。」

「…あぁ。」

「逃げるよすぐに!!!」

「すまん!!!」



そう、あまり目立たないように、とあれだけ言ってたにも関わらず私は大爆発を起こしてしまった。

これだけ派手に暴れれば、折角逃げてきたのにまたかてないさかなに居場所を知られてしまう。

残念だが今日は喫茶に向かわず、すぐにアジトに隠れた方が賢明だろう。

すぐに私と彼女は走り出す。

所々廃屋が燃えてるんだが放置で大丈夫なんだろうかこれは…。いや、まぁ、今更か…。













「あーらあら…。ふーむ。おやおやおや」


小さく、かてないさかなは笑う。

彼は実はすぐに追いつき、すぐ近くで二人を観察していた。

ただ、捕らえたり妨害するつもりは無く、ひたすら傍観していた。

と言うのも、“相手は未知の存在なのだから、まずは情報収集すべきでは?”

と先程咄嗟に思い付いた言い訳でロドクに報告した所その言い分が通ったのだ。

なので、思惑通り彼はのんびり二人を見守っていたが、予想以上の物を見せつけられた。

楽しくて仕方がない。思ってた以上に彼らは何かをやらかしてくれる。期待は大きく膨らんで居た。


「白いコテ…通称“Dead Data”と名付けたんですっけ?“心金柑”さん。フフフ…面白そうじゃぁないですか。」

「あの力…あの銃の構えは一体?それにあの女性型の方の技…あれは…。フフフフフ…」


お気に入りの玩具を眺めては無邪気に笑う子供の様に、かてないさかなはいつも以上に笑う。

殆ど表情の変わらない彼だが、今だけは、本当に楽しくて笑っていると誰でも判る位だ。

余程、現状が面白いのだろう。


「おっと、報告はしとかないと…ですよねぇ。うーん、どう報告しておきますか…」

「…“白いコテは銃器を装備。また、一人は水の能力持ち。
               ヤキムシ数匹死亡、補充求む”…こんな所でいいでしょうかねぇ。」


そう呟くとかてないさかなは歩き出す。

そこへ、水の膜が現れ、かてないさかなを覆い、

辺りの風景を歪める様に水が揺らめいたと同時に姿を消した。




「この調子で、お願いしますよ…ハハ、ハハハハハハハ!!!」




辺りは建物の燃える焦げ臭い臭いと燃え盛る炎のパチパチという音が拡がっている。

その音ですぐに彼の高笑いは掻き消え、後には何も残らなかった。



つづく


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